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「利益=売上-費用」という把握にとどまっている方にお勧めしたい1冊です。

利益に関する一般的な認識と、それに対するドラッカーの異なる見解を5点整理しておきます。

【1】《一般的な理解》利益は汚いものである。利潤動機という言葉があるように、利益を追求することは、何かやましいモチベーションに基づいている。
《ドラッカーの主張》利益は組織の存続に欠かせない。また、利益は公益に反するどころか、社会の福祉にとっても不可欠である。組織の破綻や雇用調整が頻発する社会は不安定極まりないからである。利益を上げることはマネジメントの責任である。

【2】《一般的な理解》(【1】とは逆に、)利益を追求することは、企業という組織の目的である。
《ドラッカーの主張》事業の目的は、顧客の創造である。事業は、企業が提供する製品・サービスに顧客が喜んで対価を支払っている状態が理想である。顧客こそが利益の源泉となる。その利益とは、企業が存続するための「条件」であって、それ自体が「目的」ではない。

【3】《一般的な理解》利益とは売上から費用を引いた時に残る余剰であり、損益計算書上に確かに存在する。
《ドラッカーの主張》利益は虚構であり、存在しない。利益は企業のリスクや不確実性に備えるための保険料である。言い換えれば、未来のためのコストである。農民にとっての種子は、余剰ではなく、明日の収穫のための原資であるのと同じである。

【4】《一般的な理解》多くの企業は次のどちらかに分かれる。利益の最大化(極大化)を目指すか、節税によって最小限の利益しか残さないかのどちらかである。
《ドラッカーの主張》利益は将来のリスクや不確実性に備えるものである以上、「必要な利益はいくらか?」と問わなければならない。そして、リスクは意外と大きく、不確実性は意外と高く、したがって「必要な利益」は多くの経営者が思っているよりもずっと多い。

【5】《一般的な理解》コストを管理すれば利益を創出することができる。
《ドラッカーの主張》コストを管理してはならない。「本社経費の一律5%カット」などという施策は愚の骨頂である。管理すべきは活動である。成果に結びついている活動は何か?逆に、成果をもたらさず今すぐ止めるべき活動は何か?と問う必要がある。

ドラッカーは、利益には3つの役割があると言います(『現代の経営(上)』)。

①事業活動の有効性と健全性を測定する。
②陳腐化、更新、リスク、不確実性をカバーする。
③事業のイノベーションと拡大に必要な資金の調達を確実にする。

①先ほども書いた通り、事業の目的は顧客の創造です。顧客を創造するとは、顧客に価値をもたらし、満足してもらうことです。価値や満足の度合いが適切であるかどうかを判断する指標の1つが利益なのです。アスクル元社長の岩田彰一郎氏は、「利益は顧客満足度の総量だ」と述べたことがあります。

売上も利益も少ない企業はさておき、売上は高いのに利益は少ない企業はどうでしょうか?たくさん経営資源(費用)を使ったのであれば、もっと顧客を満足させられたはずです。

利益が多すぎる企業はどうでしょうか?顧客から「それだけ利益を上げているなら、もっと我々に還元せよ」と言われるうちは、顧客満足度が妥当であるとは言えません。我が社の顧客に「十分満足した」と評価してもらえる売上高営業利益率は何%でしょうか?

②今使っている設備の入れ替えや新機種への更新に伴う費用の多くは、過去に積み立てた利益から捻出するべきです。これができている企業は意外と多くありません。機械を買うたびに融資に頼り、借入金がどんどん膨らんでいく企業をよく見かけます。

現在、我が社が持っている設備は何か?それぞれの設備は何年後に入れ替え、更新を迎えるのか?それに必要な費用はどのくらいか?その費用を何年かけて積み立てるのか?と考えることで、毎年上げるべき利益が見えてきます。

設備の入れ替えや更新は予測を立てやすい一方で、例えば新型コロナやウクライナ戦争のような不測の事態は、前もって見通すことができません。ただし、我々の経験則からすると、5~10年ごとに一度は想定外の事態が起きるように思えます。

危機的な状況でも自社を存続させることができるように資金を積み立てておくのが、リスクや不確実性に備えるということの意味合いです。『日本でいちばん大切にしたい会社』シリーズで知られる坂本光司氏は、「1年間は売上がなくても社員の人件費を支払えるぐらいの内部留保を持っておきたい」と主張しています。

③現在の事業で利益が上がっていれば、将来的に新規事業に挑戦するにあたって、必要な資金を外部から調達するのが容易になります。

この点で思い出されるのが、京セラ創業者である稲盛和夫氏のエピソードです。

稲盛氏は京セラを創業した際、資本金300万円の他に、西枝一江氏から1,000万円を借りていました。初年度は300万円の利益が出ましたが、税金や役員ボーナスなどを差し引くと、100万円しか残りません。

「1,000万円を返すのに10年かかる。これでは次の機械を買えるのが10年後になってしまう」。稲盛氏が西枝氏にそう話すと、西枝氏はこう言いました。

「あんた、何を言うとるのや。あんたが今一生懸命にがんばって、税引前で1割の利益が出たんだから、この事業は有望だということなんですよ。1,000万円を借りてあげたけれども、1,000万円の金利も払った上に1割の利益が出たんだから、それだけの力があることになる。もっと設備投資をして売上が増えるのだったら、銀行からさらに金を借りてきて投資をすればいいんですよ」

「それじゃ、返すより借りる金が増えて、どんどん借金が増えていくじゃありませんか」と詰め寄る稲盛氏に西森氏は一言、

「そう、それが事業というものです」

と返したのでした(https://diamond.jp/articles/-/88973)。

我が社は今後どんな事業にチャレンジしようとしているでしょうか?その事業に必要な資金はどのくらいでしょうか?そのうち、どの程度を外部から調達する予定でしょうか?金融機関がその資金供与に納得するには、現在どのくらいの利益が上がっていなければならないでしょうか?

「我が社にとって、現在の事業活動が有効・健全であることを示し、かつ陳腐化、更新、リスク、不確実性をカバーするのに十分であり、さらに将来の事業拡大に必要な資金の調達を可能にする利益とは一体いくらなのか?」この問いに答えるのはなかなか容易ではありません。

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