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20230526_原題の政治空間

日本では保守=改憲派、リベラル=護憲派・平和主義という構図でとらえられることが多いですが、本来のリベラルはもっと多義的であることを教えてくれた1冊でした。

①ロックの自然権思想を出発点として、17世紀の西欧に登場した近代の自由主義は、その後アダム・スミスの影響を受けて、19世紀にはもっぱら商工業ブルジョワジーの利益を代弁し、経済的な自由を唱える思想へと変質していった。

ところが、経済的な自由の追求が貧困や疾病、格差といった社会問題を引き起こすようになると、個人の尊厳や道徳的発展のために、個人が能力を発展させる機会を国家が保障しなければならないとする「倫理的リベラル」が登場する。

さらに、20世紀の初めには、国家が経済にも積極的に介入し、幅広い再分配を行うべきだと主張するリベラルな思想が現れる。その代表がケインズである。

経営者は経済的な自由を支持する一方で、労働者は国家による再分配を支持するという対立構造が続いていたが、第2次世界大戦後、欧米では両者の間に「リベラル・コンセンサス」が成立する。

労働者は経営者が目指す生産性の向上に協力し、経営者は生産性向上によって得られた利益の一部を税金として国家に納入し、国家はそれを原資として完全雇用政策と社会保障を担い、個々人の自由な生活を保障する、という合意である。

②しかし、2度の石油危機を経験して先進国の経済が停滞していく1970年代以降、リベラル・コンセンサスは批判にさらされ、解体へと向かう。

一方では、国家による画一的な分配を批判し、自由な市場を擁護する新自由主義が登場する。論客としてはフリードマンやハイエクが挙げられる。新自由主義は1980年代のイギリスやアメリカの政治で実践に移されていった。

ところが、新自由主義の目論見とは裏腹に、小さな政府は実現されず、拡大した経済的格差を解消するために、かえって社会保障費が増大する結果となった。

他方では、都市部の中産階級を中心として、価値の多元性と個人の自由なライフスタイルの選択を掲げる「文化的リベラル」が登場する。文化的リベラルが担った新しい社会運動によって、政治の世界には、それまでの「国家中心―市場中心」という対抗軸に加えて、文化的な価値観の違いに基づく「リベラル―保守」という新しい対抗軸がもたらされた。

③1990年代以降にグローバル化が進展すると、先進国では、従来通り企業や組織の中で安定的に働くインサイダーと、その周縁において断片的で不安定な労働に就くアウトサイダー(Uberの配達員がその例として解りやすい)の二分化が進行していく。

先進国の政治では、新自由主義の延長線上に、権威主義的な手法によって人々を就労へと動員する新しい国家像、すなわち「ワークフェア競争国家」が唱えられた。とりわけアウトサイダーに対して、無条件ではなく、就労を条件に福祉サービスを提供するというものである。

④その一方で、「現代リベラル」に影響を与えたのは、ロールズの『正義論』(1971)である。ロールズは「正義の二原理」を基礎に「財産所有の民主制」を唱えた。財産所有の民主制は、事後の分配を行う福祉国家とは異なり、事前の分配を行う。

つまり、全ての人が人生の出発点において人生の目標を選び、それを自由に追求できるような条件を整備する。そのためには、形式的な機会均等や、相続税・贈与税の設定だけでは不十分である。人的資本、すなわち知識、技能、教育水準を平等にそろえるため、恵まれない人により多くの教育投資が行われなければならない。

ロールズの思想を踏まえると、現代リベラルは、「価値の多元性を前提として、全ての個人が自分の生き方を自由に選択でき、人生の目標を自由に追求できる機会を保障するために、国家が一定の再分配を行うべきだと考える政治的思想と立場」と定義できる。

⑤2000年代に入ると、ワークフェア競争国家と現代リベラルの両者に対抗する第三極として、「排外主義ポピュリズム」が伸長してきた。排外主義ポピュリズムは、移民排斥を掲げるとともに、自国生まれの市民への手厚い保護や福祉を求める。

それは市場を重視するワークフェア競争国家だけでなく、多様な文化の共存やライフスタイルの自由な選択を重視する現代リベラルとも対抗する。

⑥職業の性質からして、経営者・管理職は「ワークフェア競争国家」を、インサイダーのうち、伝統的な製造業の労働者や事務職は「排外主義ポピュリズム」を、新興の専門職・サービス職は「現代リベラル」を支持する傾向がある一方で、アウトサイダーの支持は流動的である。

個人の価値の多元性に配慮したきめ細かい国家の分配を求める現代リベラルの理想とは逆に、雇用・福祉政策が”選別性”を帯びていればいるほど、インサイダーの内部でも分裂をもたらし、アウトサイダーを排外主義ポピュリズムへと追いやる。

現代リベラルは、インサイダー内部、そしてインサイダーとアウトサイダーの分断を乗り越える新たな雇用・福祉政策を模索している。

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