陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

あなたの源氏物語はドコから?

2024-04-18 | 読書論・出版・本と雑誌の感想

日本を代表する古典文学といえば紫式部の「源氏物語」。
2024年のNHK大河ドラマが紫式部を主人公とする「光る君へ」とあって、にわかに源氏ブームが起きていそうです。

今からおよそ1000年以上前に成立したこの世界最古ともうたわれる日本文学史上の傑作。全文を読んだことはなかろうとも、義務教育を受けた人ならばその名前を知らぬはずがありません。

でも、多くの人にとりましては、教科書に出てくる、土佐派のやまと絵に描かれた、引き目鉤鼻のもったりした白い顔の男女の色恋沙汰の物語、そんなざっくりしたイメージしかないのではないでしょうか。古典の授業でも、「枕草子」だとか「徒然草」だとか「今昔物語集」だとかはともかく、「源氏物語」それ自体が教材になったり、テストに出た記憶もあまりありません。まあ、危険なラブアフェアの連続ですから致し方ないにせよ。

現代っ子ならば、ウィキペディアをはじめ、「源氏」の概要をざっくり知ることはできますが。私が子どもの頃といいましたらば、わかりやすいガイド本らしきものもなくて。やたらと長ったらしい王朝絵巻の文学でとっつきにくいというイメージでした。私は小学生ぐらいからは歴史漫画好きが嵩じて、戦国武将もののジュニア伝記とか忠臣蔵だとか、源平合戦ごろの物語は読んでいました。でも、「源氏」は読もうと思ったことはなかったのですね。子どもの頃に氷室冴子の「ざ・ちぇんじ!」とか「なんて素敵にジャパネスク」が流行っていて好きだったけれども、お貴族様のあの、動きにくそうな恰好が好きじゃなかったのです。

記憶をたぐりよせてみると、私の「源氏」のファーストコンタクトは。
大学受験も迫ったあたりの高3で、図書館で借りた大判の書き下し本だったような。10冊ぐらいの大活字本ぐらいのサイズで、かなり内容をはしょっていて読みやすく現代語訳されていたもの。そんなダイジェスト版でしたが、1巻目の桐壺のあたりですぐ挫折。主人公の少年が生母と死に別れ、寂しい思いをしているうちに継母に恋心を募らせてのあたりで、とてもつまらなくなって。というのも、当時は、受験に必要な古典の知識としてなじもうとしていたので、物語を楽しむという姿勢ではなかったのですね。

源氏物語の現代語訳には、谷崎潤一郎、与謝野晶子をはじめ、瀬戸内寂聴やら、円地文子、田辺聖子などなど名だたる文学者が挑み、名作の誉れ高いシリーズもあります。しかし、私はもともと小説を読むのが好きではなかったために、手に取ることがありませんでした。図書館に並んでいるのを横目に見つつ、私には難しそうだなと。吉川英治の「三国志」や「平家物語」などの大衆的な歴史小説は好きなのに、遠ざけていたのは、やはり恋愛ものだったから、なのかもしれません。古典の副教材で、「源氏」の概要は何となく知っていて、最終章で浮舟が世をはかなんでという哀しい下りから、読む気が失せていたわけです。戦いに敗れた武将が切腹するならば誇りがあるけれども、恋愛がらみで入水するヒロインがなんとなく許せなかったのですね。今でしたらなんとなくお気持ちわかりますけども。

その私が本格的に「源氏」に触れたのは、やはり漫画からです。
大学生時に実家に帰省すると、きょうだいが「源氏」のコミックを買い揃えていました。

ひとつは、名作の誉れ高い大和和紀の「あさきゆめみし」。
これは講談社漫画文庫版全7巻で、現在も私有しています。「あさき」は後年いろんなバージョンがあるようですが。やはりこの文庫版が読みやすいのですね。表紙がコミックですと言った感じじゃないですし、巻頭に美しいカラー折込イラストがありますし。

10代に初見で読んだ「源氏」の現代語訳コンパクト小説本ではわからなかった細部ーーたとえば桐壺の更衣への不衛生な嫌がらせ(内裏の廊下にそんなものまき散らすのか?!)だとか、光源氏と愛した姫君たちとそれ以外の描写の格差だとか、零落の宮家の姫君の暮らしぶりだとか、物の怪怨霊の怖さだとか、やはり視覚効果が抜群。「あさき」が今でも源氏物語の入り口にされている理由も納得。

もう一つの漫画が江川達也の「源氏物語」。
これ、わりと原本に忠実に、一文ずつをじっくり一コマで表すといった作風なんですがとにかく展開が遅い。しかし「東京物語」のあの作者だけに、閨のシーンは青年漫画ふうにあからさまに描いてあってけっこう刺激的でしたが、結局途中で連載を終わってしまったのでしょうか? 深層の令嬢だった平安の姫君は、素顔を見られるのが裸体をさらすより恥ずかしいだとか、殿方の髻はあれの象徴だとか、わりと余計なトリビアがつく巻末の解説もあったのですが、けっこう読みづらくて、古典らしき奥ゆかしさがなかったですね。当時の新聞の書評にもあげられて、受験生必見と売り込まれていたけれども、煩悩が燃えすぎて勉強どころじゃないでしょう、コレ(笑)。


映像作品で言えば、宝塚の舞台にも映画にもドラマにもなった「源氏」。私が覚えているのは2001年公開の映画「千年の恋 ひかる源氏物語」。吉永小百合、渡辺謙、常盤貴子、高島礼子といった豪華なキャスティング。光源氏役がなんと天海祐希さんで、確かに美男子なのですけども、片肌脱ぎのときの肩のラインがけっこう撫で肩で違和感があったので、やはり源氏役は男性にしてもらいたいかったな、というのが当時の感想。

大和版「あさき」のアニメ化企画も2008年にあったのですが。
中止になって出崎統監督オリジナルの「源氏物語千年紀 Genji」に変更になったんですよね。2009年1月からワンクールでフジテレビの深夜枠で放映されたらしくて。「あさき」のアニメ化だからと、拙ブログでも当時注目したのですが、あまりしっかり視聴できなかった覚えが…。その次の「東のエデン」というアニメはよく覚えているんですが。絵コンテ段階で原作からかなり乖離していたので企画破談になったとのことですが。このアニメ、2話ぐらいまで視聴して切った覚えがあります。止め絵のような美しさもいいけれど、あまり動かなさ過ぎて退屈だったような。「ベルばら」や「おにいさまへ…」は評判高いですけれども、あれはややメンヘラチックかつ大胆な演出が原作と合っていただけなのかもしれませんよね。



(2023/12/13)




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